大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)3679号 判決 1977年10月28日
主文
一 被告は、
(一) 原告白石文子に対し、金三四三万九、二一九円および、うち金三一二万九、二一九円に対する昭和五一年八月一一日から完済まで年六分の割合による金員、うち金三一万円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員
(二) 原告白石正行、同白石基、同大窪昭子、同白石登、同中井ツタヱに対し、各自金一三〇万一、六八八円および、うち金一一八万一、六八八円に対する昭和五一年八月一一日から完済まで年六分の割合による金員、うち金一二万円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は各原告らと被告との間に生じた分につき、これを一〇分し、その一を各原告らの、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める判決
一 原告ら
「(一)被告は、1原告白石文子に対し金三六六万六、〇〇〇円およびうち、三三三万三、〇〇〇円に対する昭和四九年九月二四日から完済まで年六分、うち三三万三、〇〇〇円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員、2原告白石正行、同白石基、同大窪昭子、同白石登、同中井ツタヱに対し各自金一四六万五、二〇〇円およびうち金一三三万二、〇〇〇円に対する同日から完済まで年六分、うち一三万三、二〇〇円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。(二)訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言
二 被告
「(一)原告らの請求をいずれも棄却する。(二)訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決
第二当事者の主張
一 原告らの請求原因
(一) 事故の発生
1 昭和四九年九月二一日午前一〇時五〇分ころ八尾市弓削六九〇番地大石孝方空地において、訴外亡白石照正は、訴外大津将人運転の大型貨物自動車(ダンプカー、泉一―一や六―五四号、以下事故車という。)と訴外高畑敏樹運転のブルドーザーとの間にはさまれて胸部を強打された結果、同月二三日午前三時二〇分ころ大阪大学医学部付属病院において右事故により被つた心臓および肺臓挫傷のため死亡した。
2 そして、右事故発生の具体的な態様は次のとおりである。
(1) 事故車およびブルドーザーはいずれも本件事故発生現場の空地で土砂運搬および整地作業の用に供されていたものであるが、事故車は空地の東南隅の盛土に左後輪をはまり込ませて脱出不能になつたので、同車の運転者大津将人は空地内に駐車していたブルドーザーを運転して後退させ、事故車の前方約一・五メートルの位置にそれと同一方向の西向きに停車させたうえ、事故車内から鋼製のワイヤー一本と鉄棒一本とを持ち出して、事故車の右前部のハツカにワイヤーの一端を掛け、ブルドーザーの後部のハツカに鉄棒をさし込んでワイヤーの他端を掛けて両車を連結した。同人はブルドーザーから降車した際同車のチエンジレバーは後進のままにしていた。
(2) 白石照正はその際両車の間に入り、たるんでいるワイヤーが張るまでそれが脱離しないよう鉄棒を手で持つた。
(3) しばらく、現場を離れていたブルドーザーの運転者である高畑敏樹は同車の運転席に乗り、チエンジレバーが後進になつていることに気付かず、クラツチレバーをフライホイールに接続させて同車を発進させたため、同車は後退したものである。
3 そして、事故車は場所的には移動していないとしても、大津は同車のエンジンを始動させ、アクセルを踏んでいわゆるノツキングの状態にし、同車をブルドーザーの索引に呼応して前進させようとしたものであるから、同車を「当該装置の用法に従い使用している状態」に置いたものであり、右状態は進行中にあたり、かつ、ブルドーザーは事故車を前方に索引しようとして、誤つて後退したものであるから、ブルドーザーの動行も事故車のそれと一体として同車の運行とみるべきであるから、本件事故は同車の運行によつて発生したというべきである。
(二) 被告の債務発生の原因
1 事故車については、同車の前所有者訴外佐野行成と被告との間に自動車損害賠償責任保険契約が締結されており、大津は昭和四九年九月一五日佐野から同車の所有権を譲り受けて、同車の保険関係における契約者および被保険者としての地位も承継した。
2 大津は本件事故当時、事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたものである。
(三) 原告らの身分関係
原告白石文子は照正の妻であり、その余の原告五名はいずれも照正の実子である。
(四) 損害額
1 将来の逸失利益 二、〇三〇万八、六八〇円
原告は大正一一年四月一八日生れの健康な男子で、当時不動産業を営み、その月収は三〇万円を下らず、生活費控除を三〇%、将来の稼働年数をじ後一一年とみると、年五分の割合による中間利息を控除した年別ホフマン計算法によつた同人の将来の逸失利益の死亡時の現価は標記の金額となる。
算式 三〇〇、〇〇〇円×一二×〇・七×八・五九
2 葬儀費用 二〇〇万円
3 慰藉料 六〇〇万円
(照正本人分および原告らの固有分を含めて)
4 弁護士費用 一〇〇万円
(五) 損害の填補
前項の1ないし3の損害額の合計は二、八三〇万八、六八〇円となるが、原告らはブルドーザーの所有者であり、高畑の使用者である訴外津田建設株式会社から八五〇万円の支払を受けたので、残額は一、九八〇万八、六八〇円となる。
(六) よつて、いずれも被告に対し、自賠法一六条一項および民法七〇九条に基づき原告白石文子は保険金額一、〇〇〇万円の三分の一にあたる三三三万三、〇〇〇円に弁護士費用三三万三、〇〇〇円を付加した金三六六万六、〇〇〇円およびうち三三三万三、〇〇〇円に対する照正が死亡した日の翌日である昭和四九年九月二四日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、うち三三万三、〇〇〇円に対する同日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、その余の原告五名はそれぞれ保険金額の一五分の二にあたる一三三万二、〇〇〇円に弁護士費用一三万三、二〇〇円を付加した金一四六万五、二〇〇円およびうち一三三万二、〇〇〇円に対する同日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、うち一三万三、二〇〇円に対する同日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の答弁
(一) 請求原因(一)の1は認める、2のうち、大津がブルドーザーから降車した際チエンジレバーを後進のままにしていたこと、高畑が同車のチエンジレバーが後進になつていることに気付かなかつたことは否認するが、その余は認める。3は否認する。(二)は認める。(三)ないし(五)は不知。(六)は争う。
(二) 本件事故は、ブルドーザーの運転者である高畑がチエンジレバーを誤つて後進に入れて同車を後退させたため発生したものであり、その際事故車はなんら場所的に移動しておらず、かつ、移動できる状態でもなかつたので、同車の運行によつて発生したものとはいえず、また、照正は高畑が両車の間にいると危険であるので立ちのくよう再三警告したにもかかわらず、自ら進んで鉄棒を持つて索引作業を手伝つたものであるから、いわば事故車の運行補助者というべきで、自賠法所定の「他人」または「被害者」とはいえない。
三 被告の抗弁
(一) 仮りに、右事故が事故車の運行によつて発生したものであるとしても、右事故は高畑がブルドーザーのチエンジレバーを後進に入れて発進させた結果発生させた同人の過失に基づくもので、事故車の運行供用者兼運転者である大津には同車の運行上の過失はなく、仮に、同人がブルドーザーのチエンジレバーを後進のままにして同車から降車したとしても、高畑は同車の発進の前にあらためてそれを点検のうえ確認すべきであり、大津にはそのことを高畑に対し告知すべき注意義務はないので、大津には過失はなく、また、仮に同人にそのような注意義務違反があるとしても、それはブルドーザーの運行に関するもので、事故車の運行にかかわるものではないので、同車の運行上の過失とはいえず、同人には同車の運行に関する過失はなかつた。
(二) 右事故の発生は高畑の再三の制止にもかかわらず、自ら進んで危険な場所に位置した照正の過失に起因するものである。
(三) 事故車には構造上の欠陥および機能の障害はなかつた。
したがつて、自賠法三条但書により、大津には原告らに対する損害賠償義務は発生しないので、原告らの本訴請求は理由がない。
四 右抗弁に対する原告らの答弁
被告の抗弁(一)ないし(三)は否認する。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因(一)の1の事実および2のうち、大津がブルドーザーから降車した際、同車のチエンジレバーを後進のままにしており、高畑が同車に乗つて発進させる前にそれに気付かなかつたことを除くその余の事実は当事者間に争いがない。そして、右争いのない事実に成立に争いがない乙第一号証の一ないし五、第二号証の一ないし二六、第三号証、第四ないし第六号証の各一部、第七、八号証、証人大津将人(一部)、高畑敏樹の各証言を総合すると次の事実を認めることができ、乙第四ないし第六号証および前掲大津証言のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。
(一) 本件事故現場は東西約一〇四メートル、南北約三〇メートルの大石孝所有の空地の東南の隅あたりで、昭和四九年九月一七日ころから訴外津田建設株式会社が、藤井寺市内の道路舗装復旧工事から出る残土を右空地に運搬して捨てる代りに、その土砂で空地を埋立整地していたもので、大津将人は同会社からその土砂の運搬を事故車の持ち込みで請負い、高畑敏樹は同会社の従業員で、同月二一日は午前八時三〇分ころから空地で捨てられた土砂を同会社所有のブルドーザーでならして整地していたこと。
(二) 事故車は長さ約六・二五メートル、幅約二・四メートル、高さ約二・二メートルの最大積載量八トンの大型貨物自動車(ダンプカー)であり、ブルドーザーは三菱キヤタピラD4D型の長さ約三・九五メートル、幅約一・九二メートル、高さ約二・三五メートルで、後部に運転席が前部に整地用の排土板が付いておるもので、また、鋼製ワイヤーは長さ約二・〇五メートル、直径約二センチメートル、鉄棒は長さ約六八センチメートル、直径約三・五センチメートルであり、大津はワイヤーを地面から高さ約四五ないし六五センチメートルの位置でつなぎ、鉄棒はブルドーザー後部の八ツカにほぼ垂直に立てる状態にして置いたこと。
(三) 大津は同日午前一〇時四〇分ころ空地に西側の道路から事故車を運転して入り、後部荷台に満載した土砂を降ろそうとしたとき、左後輪が堆積している盛土にはまつてて自力では動けない状態に陥つたので、空地内の近くに駐車していたブルドーザーを転回、後退させて事故車の前方約一・五メートルの位置に同一方向の西向きに一時停車させて降車したが、その際、ブルドーザーのエンジンは切らず、しかもチエンジレバーは後進のままにし、クラツチレバーのみ接触を切断したこと。
(四) 同人はワイヤー等の連結作業をしたのち、現場に帰つて来た高畑にブルドーザーの運転を頼み、同人は同車に、大津は事故車にそれぞれ乗つて、高畑はチエンジレバーが後進に入つていることを点検、確認せず、大津が手で合図をしたのに応じて漫然クラツチレバーをフライホイールに接続してブルドーザーを発進させたところ、同車は後退して事故車の前部に衝突し、鉄棒を手で握つていた照正は同車に胸部を押し付けるような姿勢で、胸・背部を激しくはさみ付けられて強打されたこと。その際、大津は高畑に発進の合図をすると同時に、事故車のエンジンを始動させ、アクセルを踏んでいわゆるノツキングの状態にし、ブルドーザーの牽引に呼応し前進して盛土から車輪を脱出させようとしたこと。なお、同人は高畑にブルドーザーのチエンジレバーが後進になつていることを告知しなかつたこと。
(五) 他方、照正は空地の近隣に住んでいる者であるが、整地作業を寝衣のまま見物に来て、大津が連結作業を行つている間に空地に入り、同人や高畑にワイヤーがはずれてはいけないので鉄棒を持つてやろうと言い、高畑らが二、三回危ないので立ちのいて呉れと警告、制止するのにもかかわらず、両車の間に入り、鉄棒の上部を握り、それを高畑は発進前に気付き、大津は少くとも予期していたこと。
二 そうだとすると、照正の胸・背部の打撲は事故車の場所的な移動によつて生じたものではなく、直接はブルドーザーの後進によつて生じたものではあるが、事故車が当該場所に停車、存在していなければ発生しなかつたものであり、また、同車はその場所に継続的かつ静然と停車した訳ではなく、同車の運転者大津はエンジンを始動し、アクセルを踏んでブルドーザーの牽引に応じて事故車を前進させようと同車の走行、操縦動作をしていたものであるから同車の当該装置の用い方に従い同車を使用していた場合にあたり、運行中にあつたものであるので、その状態にあつた同車の存在と照正の前記の被害との間に因果関係があつたことは優に首肯することができる。のみならず、本件の場合、事故車とブルドーザーは至近距離にあり、かつ、事故車の走行装置は始動していることからすると、比較的継続した牽引走行とは異なり、ブルドーザーは事故車が盛土から脱出するために一時的に牽引の用に供された補助道具とみられ、またブルドーザーの運転者高畑は事故車の走行のための運転補助者とみられることから、ブルドーザーの瞬時的な走行は法律的に事故車の運行と同一視される。したがつて、照正の被害は事故車の運行によつて発生したものというべきである。
そして、照正は高畑らの制止にもかかわらず、鉄棒を握り、事故車の牽引を手伝おうとした者であるが、それは照正のまつたくの好意から出たものであるうえ、その作業は同車の牽引のためには軽微な補助的作業であり、同人は同車の運転を指示、管理しうる立場でもないので運行支配がなく、また格別の運行利益も有しないので自賠法三条所定の「他人」、一六条一項所定の「被害者」とみて差しつかえない。
三 請求原因(二)の1、2の事実は当事者間に争いがない。しかし、被告は自賠法三条但書の免責事由を主張するので、この点につき検討する。
(一) 前記一、二の事実および説示によれば、事故車の運行供用者兼運転者大津は照正が同車とブルドーザーの間に入つて立つているのを少くとも予期しながら、同人を強引に退去されることなく、漫然と事故車の走行装置を始動させ牽引に応じて同車を前進させようとしたのみでなく、自分がブルドーザーから降車したとき、チエンジレバーを後進のままにしていたので、代つて運転席に着いた高畑がそれに気付かないで直ちにクラツチレバーのみを作動させて同車が後進することがあるかも知れないことを予期して同人にその旨を告知すべき注意義務があるのにもかかわらず、漫然とこれを怠り、それを告知せず、同人に発進させるよう合図を送つた過失があり、前説示のように同車は事故車の運行のための補助道具であり、大津は同車の運行のためにブルドーザーを利用し、同車の操縦を高畑に対し指示できる立場にあつたのであるから、大津の右の過失は事故車の運行上の過失とみて差しつかえない。のみならず、高畑もブルドーザーのチエンジレバーが後進になつていることを点検、確認せず、漫然と前記のように同車を発進させた過失があり、同人は事故車の運転補助者とみられるので、同人の右の過失は同車の運行上の過失といえる。そして本件事故は大津および高畑のこれらの過失によつて発生したものといえるので、その余の判断をするまでもなく、被告の抗弁は理由がない。
(二) しかし、被害者照正にも数回の高畑らの警告、制止を聞き入れず、両車の中間に入り、鉄棒を握る危険な作業に自ら携つた過失があり、右の過失も本件事故の原因をなしており、その寄与の割合は大津らの過失を七とすれば、照正の過失は三とするのが相当である。
四 請求原因(三)の事実は成立に争いがない甲第三号証、乙第八号証および原告白石文子本人尋問の結果によつてこれを肯認することができる。したがつて、原告らは自賠法一六条一項により被告に対し照正の本件事故により発生した大津に対する損害賠償債権につき自賠責保険金の請求をすることができるというべきである。
五 そこで、損害額の明細について検討する。
(一) 将来の逸失利益
前掲甲第三号証、乙第八号証および原告文子本人尋問の結果によれば、照正は原告ら主張の年齢の健康な男子で不動産取引業を営む大和土地株式会社に営業係員として勤務し、妻子を扶養すべき一家の支柱であつたことは認められるが、月収少くとも三〇万円を得ていた旨の原告らの主張は、一応それに副う成立に争いがない甲第一号証の一、二および同原告本人の供述があるが、右各証拠は前掲乙第八号証等に照らして、右主張を首肯するのに十分でないので、結局昭和四九年賃金センサス産業計、男子労働者五〇~五四歳によることとし、照正の年収は二六三万四、五〇〇円と推計され、同年の簡易生命表によれば同人の平均余命は二三・四四年であるので、じ後の稼働年数を六七歳までの一五年とみたうえ、生活費控除を三五%とすると、年五分の割合による中間利息を控除した年別ホフマン計算法によつた同人の死亡時の逸失利益の現価は一、八八〇万三、七九六円となる。
算式 二、六四三、五〇〇×〇・六五×一〇・九八〇八
(二) 葬儀費用
原告文子本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二号証の一、二および右尋問の結果によれば、照正の葬儀費用に葬儀主宰者である原告文子は約一一〇万円を支出したことは一応認められるが、社会通念上、その葬儀費用は二五万円をもつて相当と認められるので、右金額の限度で同原告の被つた損害と認める。
(三) 慰謝料
本件事故の態様、照正の年齢、社会的および家庭的な境遇、原告らの照正との身分関係その他諸般の事情をしん酌すると右事故に伴う精神的苦痛に対する慰謝料は照正本人分は一五〇万円、原告文子固有分は一五〇万円、その余の原告ら固有分は各自六〇万円と認めるのが相当である。
六 そして、前項の(一)ないし(三)の各損害額につき、前記三の(二)に説示の双方の過失割合その他の事情を勘案して過失相殺をし、その三〇%を減じたうえ、前項の(一)および(三)のうち、照正本人の慰藉料の賠償債権は原告らが各自の相続分(原告文子三分の一、その余の原告ら各自一五分の二)の割合で相続して取得したものとして計算すると結局、各自の大津に対する損害賠償債権は、原告文子が五九六万二、五五二円、その余の原告らが各自二三一万五、〇二一円となる。
原告らが津田建設株式会社(同会社が高畑の使用者として、また、ブルドーザーの運行供用者として民法七一五条一項、自賠法三条により、大津と連帯して原告らに対し損害賠償債務を負担することは前認定事実により明らかである。)から八五〇万円の支払を受けたことは自認するところなので、原告らは右金員を前記の各自の相続分に応じて、原告文子が二八三万三、三三三円、その余の原告らが一一三万三、三三三円を受領したものとみなして、これを各自の債権額から控除すると、残債権額は原告文子が三一二万九、二一九円、その余の原告らが各自一一八万一、六八八円となる。
そして、本件事故当時の自賠責保険金額は一、〇〇〇万円であり、原告らの大津に対する前記の残債権額の合計は保険金額の限度内であるので、原告ら各自の右残債権額をそのまま被告に対する保険金債権額として取扱つて差しつかえない。次に、弁護士費用は、原告らの債権の成否の判断がきわめて困難な本訴請求に、被告が容易に応じないのはまことに無理からぬところであり、被告の不当抗争といえないことは勿論であるが、本訴のような困難な事実的および法律的問題を含んだ訴訟の提起、追行を、原告らが専門的知識および技術を有する原告らの訴訟代理人である弁護士に依頼したのは、権利擁護の手段として適切、かつ、必要な方法であると認めるので、右事情および前記認容額その他の事情に鑑みて同額のほぼ一割にあたる原告文子については三一万円、その余の原告らについては各一二万円を相当な弁護士費用と認める。
七 よつて、被告は(一)原告文子に対し、保険金および弁護士費用の合計額金三四三万九、二一九円および、うち保険金金三一二万九、二一九円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五一年八月一一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、うち弁護士費用金三一万円に対する前同様の同日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務、(二)その余の原告五名に対し各自保険および弁護士費用の合計額金一三〇万一、六八八円および、うち保険金金一一八万一、六八八円に対する昭和五一年八月一一日から完済まで年六分の割合による遅延損害金、弁護士費用金一二万円に対する同日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、右限度で原告らの本訴請求を正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 片岡安夫)